本場: 2008年7月アーカイブ

「四百五十年の伝統、日本一の野外劇!」

JR中央線の中吊り広告に記された文言に偽りはありませんでした。

栃木県那須烏山市で毎年3日間かけて行われる国の重要無形民俗文化財山あげ祭
期待を胸に僕は一人電車に乗ります。
新宿から宇都宮、東北本線で宝積寺駅に着く頃には景色もすっかり変わり、未来に残したい古き良き日本の原風景のようなものへ姿を変えていました。

鉄道マニアが喜びそうな2両編成のJR烏山線でゆっくりと到着した烏山駅は、これから本当にお祭りが行われるのかと疑ってしまうほど閑散としたイメージ。
道すがら立ち寄ったうどん屋さんもお客は僕一人でした。

しかしそんな不安をよそに、2時から公演が行われる山あげ会館前はすでにあふれんばかりの人だかり。
照りつける太陽と観客の熱気で会場は異様な雰囲気に包まれ、怪しげなパワーに充ち充ちていました。

山あげ祭 吉野山狐忠信そしていよいよ始まった野外劇場における歌舞伎の舞台。左の写真は「吉野山狐忠信」という演目を演じているところ。
源義経の家臣、佐藤忠信が静御前の鼓の音で現れるという場面です。

源平時代の伝説を目の当たりにするような素晴らしい公演に目を奪われていたのですが、実は山あげ祭の本当の見所は
公演が終わった後だったのです!

威勢のいい若衆がわーっと一斉に集まったかと思うと、さっきまで使われていた舞台を手際よく全て解体し山車の後ろに積み込みそのまま山車を引いて移動、そしてまた次の町で改めて組み立てるのです。


その回数なんと1日5~6回 !!
どれだけ大変か想像してみて下さい。
僕は地元の人達のこのお祭りにかける思いに強く打たれました。

そんな彼らを山車の中から盛り立てるのが、お囃子小宅流の皆さん。



ご覧の通り舞台解体・移動・組み立ての際は「新囃子」と呼ばれるアップテンポな曲で終始作業の場を活気づけてらっしゃったのですか、
なんとまぁこのお囃子のかっこいいこと!
トータルで1時間以上も続けて演奏されていたのですが、全然飽きない 。
上がる上がる!!(気持ちがね)

演奏のスタイルは笛(真竹)、大胴、中つけ、下つけ、鉦のたった5人。
この人数でこれだけのグルーヴが出せるとは本当に驚きでした。
僕は興奮を抑えられず演奏者の方にお話を聞いてみたのですが、
親切な方で保存会の会長さんを紹介して頂きました。

松本明さん
囃子方保存会4代目会長

山あげ祭 松本さん知性と情熱と男気の非常に中庸の取れた深みのある方でした。

僕の質問に対し気持ちいい程明快に帰返ってくる回答。
それのみならず、それにまつわる様々な裏話、歴史、地元への想い等々、、。

僕はこういう人を真の国際人だと思います。

洋楽・洋画・西洋文化に詳しくなったり、英語を覚えたり、海外の知識を得ることは大切なことですが、自分の国の事・自分の土地の事を知らないで海外へ出向いても本当の意味での交流はできません。

僕がそうだった訳ですから。。

あなたのお名前はなんですか?
と聞かれるようなものです。
え~っとなんだっけ?
なんて言ってる人と会話が成り立ちますか?

海外に目を向ける人間であればあるほど自分の国に目を向けるべきです。
僕はそう考えます。

さて、松本さんによるとお祭りを続けていくには想像を絶するようなお金がかかるため、
毎年資金繰りには苦労されるそうです。
まずお祭りごとに当番の町から(今回は日野町)木頭とよばれるリーダーが決められます。
木頭が言うことは絶対ですが、それだけに責任も重く金銭的にもかなりの額を負担するようです。
ただ、町の男達にとって木頭に選ばれるということは決して他では代えられない大きな名誉であり誇りであるため、皆責任を持って引き受けるそうです。

この話を聞いてこの町の方々のお祭りに対するただならぬ思いを感じつつ、
こんなお祭りを地元に持っている事を羨ましくも思いました。

山あげ祭 世話人左の写真でカンカン帽を被り粋な格好で先頭を歩くのは世話人と呼ばれる方々です。

彼らは全て木頭を経験した人達で、山車がよその町に入る際、失礼のないよう挨拶をする役目なのだそうです。

そういう予備知識を入れてからみると全然見え方が変わりますよね。



山あげ祭 金棒引きその後ろを歩くのが金棒引きと呼ばれる女の子たち。
道を清める意味があり、小学校にあがる前の子供が選ばれるそうですが、見た感じもう少し大人っぽいですね。
最近の子供は発育がいいのでしょうか。。
ね?

今回は本祭なので女の子5人ですが、つけ祭では男の子3人で行うそうです。

このように、一見しては良く分からないお祭りもそれぞれにちゃんと意味があるんですね。
ブラジルのお祭り(カーニバル)もそうでしたが、形式は違ってもちゃんと意味がある。
僕の目的はあくまでビートの収集ですが、こういった背景を抜きにしてただビートを集めてもそれは片手落ちになってしまうでしょう。

今回いろいろなお話を聞かせて下さった松本さんにこの場を借りて改めて感謝いたします。
他にも見て回りたいところがあるので2~3年後になるかもしれないが、必ず戻って来るのでご指導いただけますかと質問したところ、

「おい、どうする中野で山あげ祭広がっちゃったら?」

と、顔をほころばせながら周りの方に呼びかけていた松本さん。
山あげ祭は間違いなく世界に通用しますよ。

人手の減っている山あげ祭。
僭越ながら今後自身の活動で少しでも多くの人に知っていただければと、緩んだ帯を引き締めるのでした。

山あげ祭
http://www.mt-crow.net/k-karasuyama/index.php?mode=ym

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http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tochigi/kikaku/055/20.htm
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